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2015.11.12

[極私的版]心にのこる名作コピー その3

こんにちは、宮保です。
好きな形容詞は「女々しい」、
好きな動詞は「振り返る」です。

さて。
僕の好きなコピー、
心に残る名作コピーを
自分勝手に語っております。

今回は、僕がもっとも
胸がキュンキュンしちゃうコピー(CM)。
そう、それは
———-
石田ゆり子
———-
です。

じゃなくて。
———-
「女房酔わせてどうするつもり?」
———-
です。

とにかく、あらためて1回見てください。
2005年ニッカウヰスキーオールモルトのCMです。

…はああ。。。美しい。。
もう無限ループで48時間は見ていられますね。
こんな人が毎晩家にいたら…
で、「どうするつもり?」とか言われたら…

…という男の願望的胸キュンが
この短い映像に満ち満ちているわけですが
それだけでは終わらないのが
このCMの胸キュン度が他の追随を許さないところです。

僕でも年齢的にギリギリなので
若い方はご存知ないのかもですが
この石田ゆり子編に先立つこと15年前、
同じセリフで一世を風靡した前作がありました。
1990年、同じくニッカオールモルトのCMです。

中野良子編と、
(「女房酔わせて~」のセリフは出てきませんが)
田中美佐子編がありました。
典型的「夫婦で家飲み素敵でしょ?」な明るいCMです。

同じ商品、同じセリフ、同じ「夫婦で家飲み」で
復刻させたはずの石田編なのに、
全然違うものに変えてきてるんです。

だいいち、石田編で使われている
スターダストレビュー「木蘭の涙」は
「夫婦で家飲み素敵でしょ」にはまったく合いません。
確かに名曲には違いないですが
雰囲気がいいから、だけで通る曲でもないです。
だってこれ死別の悲しみを歌う曲だし。


逢いたくて逢いたくて
この胸のささやきが
あなたを探している
あなたを呼んでいる
いつまでもいつまでも
そばにいると言ってた
あなたは嘘つきだね
わたしを置き去りに

この曲を採用した意図に思い至ったとき
ただ胸をときめかせていた男どもの脳裏を
もしかして、と悲しい仮説がよぎります。
そしてさらに悲しいことに、その仮説は
このCMのいくつかの疑問に答えてしまいます。

なぜ
前2作では夫婦ふたりを見る第三者視点だったのに
石田編では夫の視点にしたのか?
しかもその視点はゆらゆら揺れているのか?

なぜ
前2作では夫婦が仲良くそばに座っているのに
石田編の妻は室内を(不自然に)フラフラして
夫に近づかないのか? むしろ離れていくのか?

なぜ
前2作では「さしつさされつ」の夫婦飲みなのに
石田編の冒頭シーンの夫は「手酌」なのか?
そして夫の視線は何度も手元のグラスに落ちるのか?

 

腑に落ちる答えはひとつです。
それは、石田ゆり子が演じているのは
「妻役」ではなく「亡き妻役」だということ。

石田編で描かれたのは、
もう会えないはずの妻に会う一夜の夢の物語。
そう思って見直すと
彼女が囁く「女房酔わせてどうするつもり?」も
表情も、仕草も、笑い声も息づかいも
最初とは180度意味が変わって見えてきます。
それに気づいてしまった時の切なさは、
先の男の願望的胸キュンとは比べものになりません。
もはや喀血レベルの喪失感です。

これ、見る者が一度は美しい妻と幸福な時間を過ごし、
何度目かでそれがすでに失われたものだと気づいて
喪失と孤独を追体験するという
いわば胸キュン二重構造なんですきっと。
胸キュン二重構造。ええ、言いたいだけですけど。

で、
「(幸せも悲しみも)すべてを愛せる、モルト100。」
と。

ひとつの解釈で本当のところはわかりませんけど
なんにせよ僕はこのCMが大好きです。
そしてもうお気づきでしょうが
それより何より石田ゆり子が大好きです。
ではまた。宮保でした。

Author : miyabo