こんにちは、宮保です。
僕の好きなコピー、
心に残る名作コピーを
勝手気ままに語っています。
コピーなんてものは、
広告自体がそうである以上
どうしたって「使い捨て」なのですが
ある種のコピーは
時が経って広告としての役割を終えていても
なにやら名言めいたものとして心に残り
折に触れて頭の中に浮かんできては
人を救ったり励ましたりします。
つうことで今回は僕が
仕事で難儀してる時(今日もまたそうでした)に
ちょくちょく思い出しては励まされるコピーです。
いくつかありますが、これにします。
———
人は、
書くことと、消すことで、
書いている。
———
トンボ鉛筆の新聞広告、コピーライターは故・岩崎俊一さん。
2006年らしいです。もう10年前なんですね。
ボディコピー全文打ちます。
———
人は、
書くことと、消すことで、
書いている。
消しゴムを使う人を見ると、あ、この人はいま、一生けんめい
闘っているんだな、と、なんだかちょっと応援したくなります。
自分の想いを、正しく、わかりやすく伝えるにはどう書けばいいのか。
それと真正面から向きあい、苦しみ、迷いながら、でもなんとか
前へ進もうともがいている。消す、という行為には、人間の、
そんなひたむきな想いがこもっている気がしてなりません。
文房具づくりにたずさわって、まもなく100年。トンボは
「書く道具」と同じくらい、「消す道具」を大切に育ててきました。
日本の定番と言ってもいい消しゴム。品質をみがくことで、
大きな市場を切り開いた修正テープ。そこにあるものを、すばやく、
美しく、カンタンに消し去ることで、この世にほんとうに
生まれて来なければならなかったものが姿をあらわしてくる。
消すことは、また、書くことである。と信じるトンボです。
株式会社トンボ鉛筆
トンボが動いている。
人が、何かを生み出している。
———
もちろんどんな仕事だって大変だと思いますが
労働としての負担が重い軽いとはまったく次元の違う話で、
「書く」という行為は、もっとも苦しい作業の
ひとつじゃないかと僕は思っています。
他の書き手は知りませんが、僕は文章を書いている最中に
楽しいと思ったことはたぶん一度もありません。
それでもやっぱり言語は、
互いに閉じ合ってしかいられない
人と人をつなぐ唯一の方法であって、
文章を書くという行為は、
自分の脳味噌の中に閉じ込められた何かを
相手の脳味噌の中にできるだけ正確に再現しようとして
試行錯誤しながら記号に変換していくことだと思うのです。
およそ物を書くことを生業としている人間で、
このコピーを読んで何も思わない人間がいるでしょうか。
僕は、自分が苦しみながら書いていることの意味を
あらためて大先輩に諭してもらっているような、
激励されているような気持ちになります。
広告コピーという観点でこれがすばらしいのは、
「消す」の意味を転換して新しい価値を与え、
そしてそれを商品や企業の価値へと落とし込んだ点です。
「消す」は、その直前までの作業の失敗や否定、
やり直しを示唆するネガティブな言葉のはずが
見事にポジティブなものへと反転させてしまいました。
そしてそれを、消しゴムや修正テープという商品の価値、
またそれらを作ってきたクライアント企業の価値へと
きちんと昇華させている点も、さすがの一言です。
———
そこにあるものを、すばやく、
美しく、カンタンに消し去ることで、この世にほんとうに
生まれて来なければならなかったものが姿をあらわしてくる。
———
ここの部分なんて、もう「参りました」というしかないです。
なんというか、自分ではどれだけ長い時間
「書く」と「消す」を繰り返しても、
こんな一文が出てくる気がまったくしないですね。
文章って、書いている最中は苦しいだけなのですが
自分のだろうが他の誰かのだろうが
書かれて世に出た文章がこうして
人の心を動かしたり、ずっと心に残ったりするから
やめられないんだろうな、と思います。
ではまた。宮保でした。